top of page

BACK STORY

-SHION-​ 

​「ボクが生まれた意味って、なに」

『Prototype』

 

その名称通り、ボクはMEDICALOIDシリーズの原型として製作された。

意識が浮上する。水の中にあるような感覚のあと、ぼんやりとした反響音に

遅れて微かに誰かの声が聞こえてきた。

これは、『パパ』の声だ。 『確信』ではなく『確定』。

そう認識するように造られている。声が聞こえたなら、ボクは応えなければならない。

反射的に目を開けると、丸みのある白い光の中にパパが霞んで見えた。

徐々に慣れてくると、枯茶色の髪が揺れて橙色の鮮やかな両目がボクを映す。

瞳に映ったボクは、パパとよく似ていて、まったく違う姿で横たわっていた。

身体をあずけているのはステンレスの手術台。乳白色の小さな体は、よく映えた。

パパは笑顔だ。 ボクも笑顔を返して「パパ」と呼ぶ。

 

声が上手く出ないせいか、掠れ気味で汚い声だったけれど。

すると、パパは人差し指でボクの頬を撫でてくれた。ぬるま湯のように心地良い温度。

 

反対に、ボクの肌がとても冷たいことに気づく。温度がないのだ。

ボクは人間じゃないと改めて理解させられる。 それでもこの手は暖かい。

 

パパは人間と変わらず、ボクを愛してくれるだろう。

幸せな未来を想像して、ボクはつられてからりと笑った。

 

この時まではね。

bottom of page